では、どんな人が実際に天上界に行っているのでしょうか。ざっと見渡しただけでも、私たちの知っている歴史上の人物で天上界へ行った人は驚くほど少ないのです。ことに9階以上の菩薩界に進んだ人は、数えるほどしかいません。私たちはよく、人は死んだら天国へ行くなどという言い方をしますが、天上界への入り口はあまりにも狭いのです。法則に沿うように自分を使い切ることは、それほど簡単なことではないのです。
釈迦とキリストは「宇宙界」にいますが、21階の1段下である20階に留まっています。空海は18階(「菩薩界」)にいます。空海が全国を渡り歩き、衆生とともに生きたことは、今も言い伝えられています。
空海や釈迦、キリストに共通して言えることは、彼らが単に衆生を救おうとしただけに留まらず、数々の実証を現わしていることです。空海がなぜ今日に至るまで庶民に親しまれているのかといえば、彼の行った社会事業が、現実に多くの人々に恩恵をもたらしたからです。干ばつに悩んでいる地域に対しては水をもたらし、飢えに苦しんでいる人々には食物をもたらしました。単に恵んだだけではありません。彼らが自力で水と食物を手にすることができるように、命あるかぎり続けたのです。
それらの事実は、空海の杖のひとふりで水と穀物が湧き出すという伝承に形を変え、今も全国各地に残されています。空海の残した足跡は、その土地の人々の間に語り伝えられ、今日まで弘法大師として親しまれています。現実に多くの人を救うこと、これが天上界の高い階層へ位置するための条件です。観念だけに留まる救済には、なんの意味もありません。真によろこびの観いを分け与えることができたなら、その人は現実に救われているのです。
そのほかに菩薩界に行った人では、12階に老子、11階に聖徳太子、良寛、10階にアインシュタインがいます。
大河ドラマに取り上げられ、2024年度の1万円札の図柄になる実業家、渋沢栄一は天上界5階にいます。渋沢栄一は、江戸時代末期に農民から武士に取り立てられ、後に幕臣となり、明治政府では官僚になりましたが、のちに下野して財界人として活動しました。設立・経営に関わった企業は約500社にもおよび、「日本資本主義の父」と呼ばれています。氏は著書「論語と算盤」の中で述べているように、それまでは武士にしか取り込まれなかった道徳(論語)と下賤とさげすまれた商人の経済活動(算盤)を合体しました。
すなわち、西洋から取り込んだ科学と失われた日本の精神教育を合体して、近代日本の発展に寄与したのです。氏は「自分が皆のために、どのように生きるのか」という「天命」をもって生きることの大切さを教えました。また、「成功することが幸せではなく、社会に貢献することが幸せである」ということを述べ、実践した人でした。