あなたの頭が、あなたの悩みを作っていることは、先の例でお分かりいただけたと思いますが、では、なぜそのような頭になってしまったのでしょうか。
それは、あなた自身の「こだわり」にあります。自分の利益にこだわる、自分の見栄にこだわる、自分の評価にこだわる、といったように自分の「欲」にこだわってしまうから、あらゆる悩みを抱えてしまうことになるのです。
ある例話を紹介してみましょう。
修行の旅に出かけた和尚とその弟子が、川を渡ろうとしたときの話です。
2人が川原に降りていったところ、1人の若い女性が川を渡れなくて困っていました。和尚はなんの躊躇もなくその女性を背負って、弟子にかまわずさっさと川を渡り、なにくわぬ顔でまた歩き始めました。弟子はその後を追いながら、先ほどのことが気になって仕方がありません。そこで、弟子は和尚を追いかけ、話しかけました。
「女色を近づけるのはタブーではないですか。それなのに、先ほどは……」
和尚は答えました。
「わしはとっくにあの川に置いてきたのに、お前はまだ抱いているのか」
和尚は、無心で女性に手を貸して、背中から下ろした瞬間に、そのことを忘れていたにもかかわらず、弟子のほうはまだ若い女性にこだわり、頭の中でさまざまな妄想を描いて引きずっていたのです。
こだわらない頭には、悩みは生まれません。いわゆる「空」の状態です。しかし、こだわる頭からはいろんな悩みが生まれてくるのです。
「頭をとる」とは、こだわる頭を捨ててしまいなさいということです。そうすれば、頭の中は「空」になります。その「空」は、悩みや苦痛の代わりに、あなたの生命が発する「よろこびのエネルギー」で満たされていきます。そして、あなたは人間の本来の姿、自然体のままの姿、つまり「よろこびの表現体」としてのあなたになることができるのです。
悩みというのは尽きないものです。小さな悩みから、人生を左右するほどの大きな悩みまで、私たちはさまざまな悩みをいつも抱えながら生きています。
その原因は、こだわる「頭」にあると述べましたが、悩みの本質について話を進めてみましょう。
こだわりが強く表れて悩んでしまう、典型的な例に恋愛があります。
熱烈な恋愛をしているとき、人は最高の幸せを手に入れた気分になれます。ところが、その一方で、恋の相手にこだわり、恋そのものにこだわり、その恋を失うことを恐れ守ることにこだわるようになると、不安感もまた勢いよく上昇してくることになります。
愛するがあまりに些細なことにまでこだわる自分がいて、そのこだわりを「握り締める」自分になってしまうために、恋特有の悩みが次々に生まれてくるのです。
そして、頭の中のこだわりが大きければ大きいほど,その恋が破局を迎えたときのショックは計り知れないものになります。とたんに不幸のどん底に落ちてしまい「死んでしまいたい」とさえ思うほどに悩み続け、しばらくは絶望の日々が続くことになります。
このように、悩みというのは「こだわり」の強さによって深刻度を増していくのです。
頭の中のこだわりを捨ててしまえば、もっと楽になれて、もっと自分らしさを発揮できるのに、どうしても捨てることができない。それどころか、楽になろうとすればするほど、自分らしくしようと思えば思うほど、またそのことにこだわりが生まれて、逆に悩みが深くなっていくのが「悩み」の本質なのです。
私たち人間は、このような「こだわり」をたくさん抱えて生きています。
たとえば、劣等感に悩むのもそうです。学歴が低い、仕事のイメージが悪い、容姿に自信がない、人づきあいが下手、家の経済事情など、人それぞれに何らかの劣等感を抱えています。そしてそのこだわりが強ければ強いほど、「人に嫉妬する」「卑屈になる」「見栄を張る」「ウソをつく」といった面が強く出てくるようになり、「素直になれない自分」に悩むようになってくるのです。
このように、「こだわり」から生まれる悩みは、いろんな形になって表れ、頭の中で勝手に増殖していきます。
そして、あなたから元気を奪い、あなたの人生を邪魔し続けるのです。
悩みがあなたに与える悪影響は、心理面だけではありません。悩みがある限度を越えて感情的になると、とたんに体に大きな影響をもたらしてしまいます。
「腹が煮えくり返るほど悔しい」
と思ったときには、本当にお腹の中で「腸」が激しく動いて煮えくり返っているのです。「頭にきた。頭に血がのぼってキレそうだ」
というときには、血圧が高くなり、頭に血がのぼって、実際に血管が切れる危険があるのです。
体の中でこのような異変が続くと、健康を害して病気になるのは当然のことです。不眠症や偏頭痛に悩まされる人、情緒不安やアルコール依存症になる人が急増しているのは、この文明社会の中でいかに悩みを抱えている人が多いかということを証明しているようなものです。
健康だけではありません。悩みはあなたの人相までも変えていきます。
悩みがあると、まず笑顔が消えていきます。イライラすることも多くなるので、顔の筋肉が引きつる回数が増えていきます。これが何度も続いていると、そのような表情が「普段の表情」になってしまい、顔つきが悪くなってくるのです。
性格にも、もちろん影響が出てきます。心に余裕がなくなるため、やさしさや思いやりが真っ先に消えていきます。そして、視野が狭くなるため考え方も消極的になったり、偏屈になったりしてきます。
つまり「嫌な人間」になってくるのです。
決して脅かすわけではありませんが、このようなことがすべて、現実にあなたに表れてくるのです。あなたの「こだわる頭」が悩みを生み出し、その悩みがありとあらゆる形であなたを覆ってしまって、幸福になりたいあなたを、まったく別の方向に運んでしまいます。
このことに真剣に気づかなければなりません。でないと、自分自身が決して望まない人生を過ごすことになるのです。
◇2章 生命力を発揮させない頭