◇2章 生命力を発揮させない頭

3.こだわる頭の仕組み

もちろん「頭」というのは、人生を効率的に、そして有効に歩んでいくためには不可欠のものですし、知的生命体とされる人間を人間たらしめ、知的な資産を築く上でもなくてはならない部位であることは重々分かっていながらも、私ほどこの「アタマ」に苦しめられた人間もいないでしょう。
私自身のかつての経験は前著に詳しく書いていますが、ここでさらに頭(脳)の役割と人間の特性をひもといてみたいと思います。
脳科学の研究によると、人間の脳に入ってくる情報量はあまりにも膨大なので、脳が情報をフィルターにかけるそうです。そして、私たちが取り入れる情報量は、入ってくる情報量の2億分の1にすぎないという試算があります。
ですから、人間の脳は、莫大な可能性の中から、つねに何を見て、何を信じるのかを選んでいるのです。
ここが肝心なところなのですが、脳には怠け者の側面もあるので、「これを見よう」と選んだ情報は、実はすでに知っていたことばかりなのです。ずっと昔に見ると決めたものと同じものを、何度も何度も見ようとするのです。
「思い込み」のフィルターではじかれた残りの現実は、気づかれることもなく消えていきます。
どの情報を取り入れるかを決めると、脳はさまざまな神経細胞をつなげる作業をはじめ、神経経路を作ります。そして、いつも通る道(神経経路)が決まると、もう他の道を通らなくなります。
その脳内の道路は、ごく早い時期に作られます。
生まれたばかりのときは、すべての可能性が存在しました。たとえば、生まれたばかりの赤ちゃんは、世界に存在するすべての言語を発音する能力を備えています。でも、生まれてからいくらもしないうちに、私たちの脳の中では、いつも聞く言語だけに対応する神経経路が形成されます。他の言語の聞きなれない音は除外されるのです。
だから、ほとんどの日本人は、やがて習うことになる英語の授業に四苦八苦することになります。
このように、脳内の神経経路は、すでに体験したことを繰り返し再生します。
結果として、どんなにみじめな気分になっても、どんなに理想の自分から遠ざかっても、やっぱり慣れ親しんだ不幸のほうを選んでしまうのです。
以上の科学的裏付けをもとに、なぜ私たちは「こだわる頭」を持ってしまったのかを考えてみましょう。
その原因として以下の3つが考えられます。

① 欲しいものを手に入れるのは難しいと言ってしまうから
自分の吐く言葉を注意して聞いてみてください。いったい1日に何回くらい「難しい」「大変だ」という言葉を使っているでしょうか。また、「昔からずっとこうだった」とか、「うちはそういう家系だから仕方がない」という言葉にも注意してみましょう。「できないこと」ばかり言っているので、大切なことを忘れてしまうのです。
せっかく、「できないこと」を「できること」にする力が私たちにはあるにもかかわらずです。

② マイナス思考にとらわれているから
私たち人類は、過去に起こった問題、災害を熱心に研究し、緊急事態や危機に備えています。そして、問題にかじりつき、「どこが悪いのか」ということを考えるのが好きです。
「不足」と「豊富」は裏と表の関係です。「病気」と「健康」もそうです。どちらの側面も同時に存在しています。どちらの側面も本当のことです。ただ、どちらかの側面を見ることを選んだためにもうひとつの側面が見えなくなってしまっているだけです。

③ 知っていると思い込んでいるから
一度「あれはこういうものだ」と決めてしまうと、たいていの人はもう疑問を持ちません。何かを「知った」と思うと、それがあなたの正答になります。しかし、何かを知っているというのは、とても大きな足かせになります。
両腕に荷物を抱えていたら、それ以上何も持つことはできません。どんなに知識が豊富でも、どんなに学位を取っていても、何かを「知っている」と思い込んでいると、可能性の扉が閉じてしまうのです。
釈迦は「本当の知恵とは知らないことだ」と伝えています。つまり、「私はこれを知っている」と思っているうちは知っていることにはならないということです。

以上、脳科学の見地から少しばかり探ってみただけでも、こだわる頭をもつ原因も、その対策も明確になってきます。その原因を取り除くことができさえすれば、誰もこだわりを持たず、最高の人生を送ることができるはずです。
では、なぜそうならないのでしょうか。