◇2章 生命力を発揮させない頭

1.あなたの頭が一番の問題

あなたの生命には素晴らしい力があるということを、大切なことなので何度も述べてきました。
では、その力が十分に発揮できないのはどうしてなのか──。そこには大きな原因が横たわっています。
それは、あなたの「アタマ」なのです。
人間は、他の生物よりもはるかに進化した生命体です。その進化を可能にしたのは、ほかでもなく頭脳の発達でしたが、いつのまにか人間は、その「頭」を間違って使うようになりました。つまり、自分の欲のために使い始めるようになったのです。そこから、人間はおかしくなってしまいました。
自分のため、自分のため、とアタマが働けば働くほど、頭の中は「我欲」や「見栄」、「利益」でいっぱいになり、それが「嫉妬」や「競争心」、「わがまま」や「損得勘定」といったように拡大していき、釈迦が煩悩と称した、ありとあらゆる「悩み」を生み出してきたのです。
頭が悩みを作っていると言っても、ピンとこないかもしれません。
そこで、たとえばあなたが会社で仕事中、上司に呼ばれてひどく叱られたとします。そのとき、あなたは頭の中で何を考えるでしょうか。
「そこまでひどく叱らなくてもいいじゃないか。私にも言い分がある」と思えば、上司に対して反発心が生まれています。
おそらく一日中、叱られたことで気分が悪く、上司を憎むようになるでしょう。そして、同じことが何度も続くと、さらに「私は上司に嫌われている」と悩むようになり、ついには「こんな会社は辞めてやる」とさえ思い込んでしまうようになるでしょう。
さて、その結果、意を決して辞表を叩きつけたとします。そのとき上司が、「君がそんなに私を恨んでいるとは思いもよらなかった。実は、君の事務能力を買っていたんだ。それで、もっと重要な仕事を任せようと思って、君にだけは強く……」と言ったとしたら、あなたは頭の中で何を思いますか。
「私のことを認めてくれて、それであんなに叱ってくれたんだ。私は今まで上司を誤解していた……」と思ったとします。
すると、いままであなたが悩んでいたことは、いったい何だったのでしょうか。叱られたことにこだわり、そのこだわりがあなたの頭の中で悩みとなり、いつしか人生の転機を決断するほどの大きな悩みに、あなたの手であなたが勝手に育てていったのではないでしょうか。
では、最初に叱られたとき、あなたが「上司は私のためを思って、こんなに叱ってくれるんだ」と思っていたら、どうでしょうか。
あなたに、この件に関する悩みは一切なかったことになります。むしろ、上司に感謝の念を抱いて、もっと仕事を頑張ろうと思っていたかもしれません。
上司の気持ちを、あなたが頭の中でどう受け取ったかによって、結果がこうも違うのです。あなたの悩みは上司が作ったのか、それとも、あなた自身が作ったものなのか。悩みの発生原因がどこにあるのかは、もうお分かりでしょう。
そうです。あなたの悩みは、あなたの「アタマ」が作ったのです。
釈迦は「すべての煩悩を取り去れ。そうすれば人間は苦から解放される」と言いました。
あなたの頭の中には、自分を苦しめるさまざまな要因が詰まっています。そして、自ら悩みを作り出しているのです。そのことに気づかない限り、一生、悩みから解き放たれることはありません。
人間は本来、何の悩みもなくただよろこびのエネルギーをかして、それを全身で表現できていました。それが人間の自然な姿だったのです。
ところが、頭を自分の欲のために使い始めてから、人間は本来の姿とは大きくかけ離れていってしまいました。
そのため、人間は本来の姿を失い、純粋な自分の生命エネルギーを発揮することができなくなってしまったのです。体の内から源いてくる生命エネルギーを、アタマが蓋をして、押さえ込んでしまったからです。
あなたのアタマが障害物になっている。だから、その頭を取ってしまおう。乱暴な言い方に思えるかもしれませんが、そうすることが、本来あるべき「自然な人間の姿」に戻ることができる唯一の方法なのです。
ここで、先ほどの例え話を別の角度からみると、もうひとつ新たな発見ができます。
あなたは、今日も頑張るぞ!と元気に会社に行きました。それなのに、上司に叱られました。そのとたんに気分が最悪になり、ヤル気は吹き飛んでしまいました。それから半日経っても腹の虫が収まらず、帰りに上司の悪口を言いながらヤケ酒を飲みました。
よくある話ですが、このように、悩みが発生すると、それまでの元気や意欲は瞬間にして消滅して、怒りや失望に一転してしまいます。そして、その悩みの大きさにもよりますが、一日中、あるいは何ヶ月もそのことが頭から離れず、イライラしたりクヨクヨしたりすることになります。
このような悩みが常時、3つも4つも頭の中にあったら、あなたは毎日、どのような気分で過ごすことでしょう。いつも元気がなく、笑顔も見せず、あなたの魅力はすべて消え去って、短所ばかりが目立つようになります。
このような現象がなぜ起きるかというと、やはりあなたの「悩むアタマ」が、内から源いてくる生命エネルギーを邪魔したために、あなたの生命の働きが悪くなったからです。生命エネルギーが沈滞化してしまった症状が、形となって表面に現れてきたのです。
このシグナルの意味を見落としてはいけません。でないと、単なる精神的な落ち込みだと解釈して、問題の本質に気づかないまま、同じことを何度も繰り返して悩むことになるからです。
このような現象が続いたときは、あなたも毎日がおもしろくないでしょうが、あなたに接するまわりの人も、あなたのためにおもしろくありません。あなたが悩むということは、あなただけの問題ではないのです。