「このままでは肝硬変になるって、医者に脅かされているんです。自分でもやめなきゃいけないとは思っているんですが、付き合いもありますし、ついつい飲んじゃって……」。誰でも身に覚えがあるかもしれませんが、そんなことを言いながら、おいしそうにお酒を飲んでいる方をよく見かけます。なにもお酒にかぎりません。
「悪いと思いながらもついついやってしまい、後悔はしてもまた同じことを繰り返す」
こんな生き方をしている人が、あなたの周囲にもいるのではないでしょうか。そんな人たちのなかには、「自分はダメな人間だ」と思いこんでいる方までいます。本当はダメな人間なのではなく、「習慣」に流されながら生きているだけであることに気づいていないのです。
「習慣」とは、同じことを何度も行っているうちに大脳や身体が覚えてしまい、意識しなくても同じことを繰り返してしまうことです。
私たちは、毎日を自分の頭で考え、自分で判断しながら暮らしていると思いがちですが、実際には、一日の大半の時間、ということは人生の大半の時間を「習慣」によって過ごしています。
この「習慣」が、私たち自身と人生に大きな影響を与えているのです。
そして自分自身に目を向けたとき、一番見逃されやすいのが、この「習慣」の問題なのです。
たとえば、毎朝の日課がそうでしょう。
朝、目が覚めると、まず寝床から起きて、トイレに行き、歯を磨き、服を着るといった一連の動作を、ごく自然に、無意識のうちに行っています。
この動作の一つひとつについて、自分にとって意味があるかどうかを考えたり、手順に迷ったりする人はいないでしょう。気がついたら、いつも通りの日課を終えていた。そんな毎日のはずです。
このような習慣は、私たちの生活の中に驚くほどたくさんあります。眠っている間も含めて24時間のすべてが、習慣の影響を大きく受けているといっても過言ではないほどです。ただ、そうすることが当然であるかのように無意識に行われることが多いので、気がつかないだけなのです。
習慣が働いている間でも、頭の中ではいろんなことを考えています。掃除をしながら夕食の献立を考える、通勤電車の中で仕事のことを考えるといったように、頭の意識は一時も休まず、今日の予定を決めたり、気になっていることを考えたりしています。その自覚があるために、習慣に動かされながらも、自分の意識と判断で行動していると思ってしまうのです。
あなたも、いろんな習慣を身につけているはずです。習慣が強く身につくと、それは「クセ」と呼ばれるようになります。そしてこのクセや習慣を、いつの間にか、自分の欠点と思いこむようになるのです。
寝酒をしないと眠れない、他人の悪口やグチをこぼす、ギャンブルに熱くなる、時間にルーズ、すぐカッとなる、人に頼まれると断れない等々、あなたにも思い当たる節があるかもしれませんが、これらはけっして欠点ではなく、ただ単に、あなたの習慣が生み出したものにほかなりません。
習慣について、もう一つ気づいていただきたいことは、習慣というのは動作や行動だけではなく、頭の中にもあるということです。物事の見方、判断基準、考え方、感情の働きなども、その人なりに習慣化されているのです。
たとえば、よく「発想を変えなさい」と言われますが、なかなか変えることができないのは、その人の発想の仕方が習慣化しており、その人に慣れた発想の仕方でしか頭が回らないからです。
これを固定観念と言います。頭の中にこびりついた嗜好のクセと言ってもよいかもしれません。
このような頭の中の習慣は、次のような形で現れてきます。
「前向きに考えようと思うけれど、どうしても消極的、悲観的な考え方をしてしまう」
「悩み出すと止まらなくて、何日も引きずり、夜も眠れなくなる」
「いけないと分かっているけれど、また同じことをして後悔する」
「問題を見つめるのが怖くて、いつも逃げている」
ひょっとしたら、思い当たる節があるかもしれません。
消極的な考え方をする人は、そのような思考法をする習慣が頭の中で作られており、その習慣にしたがって考えるから、いつも消極的な答えしか出てこないのです。悩みも同じことで、物事に反応して判断するシステムが、悩みという答えを生み出すように習慣づけられているのです。
このように見ていくと、習慣というものが、いかに自分自身や自分の人生に大きな影響を与えているかが理解できると思います。
人は、たくさんの習慣を抱えており、それらの習慣が統合して「人格」に影響を与え、その人特有の物事の考え方が生まれ、行動が作られていくのです。
そして、その結果が〝いまの自分〟の姿なのです。
たとえば禁酒ができない人は、「お酒を飲む」という行動習慣と、「お酒をやめなければいけないとは思うが、意志が弱くてやめられない」という思考習慣の2つの相乗効果で、何回禁酒の努力をしても実らないという、〝自分自身〟の一面ができあがっていくのです。
自分を変えたいと思いながら、変えることができない本当の原因の一つは、実はこの「習慣」にあります。あなたの頭や身体に染みついたマイナスの思考・行動習慣が、あなたを変えることを阻んでいるのです。